2024.12.22 Sun
関市

対をなす線、確かな存在感

光りをはらんだ空間に、一筋の線が走る。
《永劫》と《一瞬》と題されたこの2作品は、2012年、桃紅、白寿の作品である。限りなく続く永遠の時間を意味する「永劫」と、きわめてわずかな時間を意味する「一瞬」。金地と銀地、中央に垂直に降ろされた銀泥の線が緊張感を伴いながらたたずむ「静」と、細い金泥の線が画面を閃光(せんこう)のごとく截(き)り静寂を破る「動」。この2作品はそれぞれ独立した構図を持ちながらも対をなしている。その対をつなぐものは、凛然(りんぜん)とした線である。余分なものがすべてそぎ落とされ、凝縮された一筋の線は主となり、確かな存在感を示す。桃紅にとって線を書くことは、空間を截り、余白に無限の広がりと緊張感を与えることであり、それは内と外、有と無の境を超越することである。一瞬の心の内になるかたちは、筆を通して一筋の線に宿り、永劫の美となって現れる。

桃紅は今年3月28日に100歳を迎える。はじめ書家として出発するが、書の約束ごとを嫌い、戦後まもなく2年間の渡米を経験し、抽象画家として独自の表現方法を手に入れた。帰国後の1960年代は、いくつかの太い線で構成された面が、画面を占め、70年代に入ると日本的な美が表れ始める。80年代からは、叙情性は次第に消え、線と面が緊張感を保ちながら交わり、余白が際立つ作品へと変遷する。その後、和紙に染み入る太い面的な線や、金、銀地の光のなかにたゆたう細い線など、さまざまな墨線の表情を引き出した作品を創りだす。100歳を前にして、桃紅の線は極限に近づいた。完結し静まりかえった画面を断絶し新たな空間を生み出す一筋の線。その美しい姿は、桃紅の内で結晶した心のかたちである。

今を生きる桃紅は語る。100歳も一つの通過点だと。常に新しいものを加え、創り続けてきたその歩みはとどまることはない。

《永劫》 2012年 墨、銀泥、金地、和紙 60×240

《永劫》 2012年 墨、銀泥、金地、和紙 60×240

《一瞬》 2012年 墨、金泥、銀地、和紙 60×240

《一瞬》 2012年 墨、金泥、銀地、和紙 60×240